上部呼吸器系
私たちは口と喉を通じて呼吸しています。管楽器奏者が目指すべきは、最小限の摩擦 “minimal confriction” で吸入を行うことです。良い吸入の手本といえるのが、あくびです。息を吐き出しているあいだ、「息がどこに息が行き着くかが大事なのであり、口腔内の感覚が問題なのではない」とジェーコブスは言います。
ジェーコブスは鼻だけで呼吸することを勧めていません。「鼻呼吸が悪いと言えませんが、呼吸が遅くなるのです。」彼は、口を大きく開ければ、同一時間内により大きなブレスをとることができると考えます。もし口からごくわずかな空気をとるのであれば、口と鼻から同時に息をとる方が有意義でしょう。「両方が相互に補完することができるため、鼻と口の両方から息をとることができればそれがベターです。」
喉(咽頭)を閉じれば、息の流れを制御することができます。ジェーコブス氏はしばしば、演奏者のあごの下で喉が閉じることを意識して確認しています。「私は口の中に咽頭のスペース以上の息をとることを望みません。空気抵抗の必要な場所は唇であって喉ではないのです。口から快適に空気をとれば咽頭内に適度な摩擦が生まれますが、多くとりすぎると喉に強い抵抗が生じ、空気の扱いが難しくなります。」
息の流れを妨げる一般的な原因は、体内の気圧の増大です。気圧の増大からアンブシュールを守るためには、喉を閉鎖するか舌を使うことです。そうするとベルヌーイの定理により下部呼吸器系に圧力が高まります。これは骨盤底筋群の圧力に起因する症候群の原因にもなります。喉は常に開いていなければなりません。「喉が開いているということは、喉がリラックスしているということなのです。」
喉頭は、咽頭とそれに連動する筋肉から成り立っています。物を飲み込んだり、バルサルバ法で分娩や排泄を行うため下方へ圧力が必要となったとき、咽頭は空気の通り道を閉鎖します。これは通常の呼吸や楽器の演奏では起こりません。
1995年、アメリカのインディアナ州、ブルーミントンで行われた国際金管楽器大会で、ジェーコブスは学生を使ってこのデモンストレーションを行いました。
A.Jacobs:「君にはただ、風のように息を全部吹き出してもらいたい。私がまずやってみよう。」(息を吐き出すと窒息するような音を出す) 「今の感じを表現してみてくれないか。」
学生:「死にそうな感じです。」
A.Jacobs:「おい、死なないでくれよ。ボランティアを探すの大変なんだ ;> 窒息するような感じがするはずだ。喉のところに。皆の前でやってみてくれたまえ。」「すべての圧力を首で感じているかい?」
「圧力は首で感じなければなりません。この状態のとき、首だけでなく呼吸器系全体に変化が生じているのです。バルサルバ法の一部として、骨盤内の圧力を上昇させるため、呼吸器系全体が自然に使われます。子供を産む女性は、胎児を体外に出すためにいきまなければなりませんよね。」(ジェーコブスは押し出す音をまねる)
「多くの奏者は、楽器演奏中にこの形をとっているのです。演奏者は高い圧力がかかっていても空気をとることができますが、たっぷりととることはできません。空気を肺の外に出し空っぽにする収縮現象を行う余地がないからです。」
空気は喉頭の下部ではなく上部で感じることができます。ジェーコブスは、音出しの最初と最後に喉頭筋を使うようには助言していません。
気管は気管支樹の始まりです。気管は胸部の途中で左右の気管支に分岐し、肺の入口となります。「気管を移動する空気の量が不十分なとき、声門は閉鎖し、舌の背後に過剰な気圧がかかり、アンブシュールに必要な空気が欠乏するのです。」
(Frederiksen, Brian: Song and Wind, U.S.A, 1996, p.101-103)
楽器を持ってブレスするとき、金管・木管楽器奏者の体はどんな反応を引き起こしているのか。呼吸の仕組みや息の流れについて知ることで、あなたは何を考え、何が変わりましたか。