前回あたりから徐々に、呼吸を医学の立場からとらえる本論に入って参りました。とはいえ、毎度くりかえすのですが、”Song and Wind” の著者フレデリセンは大変に親切・・!!音楽分野の人を読者に想定して、ジェーコブスの医学との取り組みも抵抗なく理解に導くあたり、やはりこの著作こそ、ジェーコブスに関する入門書として最適だと、筆者は思います。
さて、以下の訳文も呼吸に関する連載の続きです。では、翻訳をどうぞ。
呼吸の制御について
人体は呼吸を刺激・阻害する一連の複雑なフィードバックループを形成しています。それは、首や延髄にある単純な生化学的センサーであったり、感情に直結するような解剖学の範疇外のものまであります。二酸化炭素が原因となる酸素濃度低下や血中酸度の上昇への反応として、より速く深い呼吸を行うため、神経を通じて呼吸筋へシグナルが送られます。ある特定の状況下では、アルカリと酸性のどちらかが優勢となりますが、健康な音楽家の場合、今ブレスするぞ、と刺激を喚起するのに、どちらも等しく重要なのです。過換気によって血中濃度が過多になる可能性があるです。
しばしば呼吸が多く必要となることがあります。たとえば、ある人が安静に呼吸しながら海抜2.5フィート/hで歩道を歩くとすると、血中の酸素容量は、エベレストの頂上にいる人と同じレベルまで急速に下がります。これは生命にそぐわない血中酸素濃度です。
簡単な演奏練習でさえ、明らかに呼吸を増やさなくてはならなりません。このとき、吸気の時間が同じでも、呼気の時間を短縮するのが正常な反射作用というものです。酸素の消費が大きくなれば、呼吸量よりもまず、呼吸頻度が上がります。
楽器を演奏する人の呼吸は、自然の呼吸とは明らかに違います。ホメオスタシス(生体の状態を恒常的に保とうとする仕組み)の働きを生むのに化学的交換を必要とする以上に、構造的な管楽器には音を生み出すことが必要なのです。
(Frederiksen, Brian: Song and Wind, U.S.A, 1996, p.100-101)