A.ジェーコブスの管楽器教授法~身体的要素の研究(2)

前回に引き続き、教育者としてのジェーコブスの姿に迫るため、ブレスビルダーなどの呼吸器具の導入にいたった彼の呼吸法研究の足跡をたどっていきます。

ブライアン・フレデリクセンの著作”Song and Wind”は実にわかりやすく解説されていますので、これの部分翻訳を続けていきたいと思います。

以下、訳出。

呼吸の仕組み

ジェーコブスはいつもこう述べていました。「人体について特別な知識がなくとも、偉大な音楽を生み出すことは可能です」。多くの自動車レーサーが自分の車についてほとんど何も知らないように、ほとんどの音楽家も呼吸の仕組みを知りません。通常の運転をする場合には、ボンネットの下で何が起こっているかなんて、知る必要はありませんね。しかし、レースでの運転のように、もっと真剣さが要求される場合、自動車の仕組みを詳しく理解していると役に立つこともあります。

呼吸の仕組みの理解にも、同じことが言えるのです。普段自然に呼吸しているときは、このことはあまり考えない方がよいでしょう。しかし、管楽器を演奏するなど、より特殊な呼吸を行うとき、呼吸の生理学的知識をもつことは有利に働きます。

この非常に複雑なテーマこそ、ジェーコブスが50年以上もかけて研究したことなのです。「人体の構造は驚くほど不可思議です。しかし、私は音楽家として音楽を教えるわけですから、呼吸のメカニズムの正常と非正常など、あまりに複雑すぎます。」

ここで大事なことは、いつ分析を行い、いつ分析しないのかということです。自動車のレーサーは、ピットに入った瞬間こそ車の構造を分析するときであり、レースのトラックに戻ってしまえば、あとは運転するのみです。音楽家にとって、コンサートの最中は呼吸の仕組みを分析すべきときではありません。演奏するときなのですから。

ジェーコブスはこう述べています。「呼吸の観察を行うとき、私は観察者のよろいを身につけます。教えているときは教師のよろい。そして演奏家のよろいをまとうとき、私は呼吸のメカニズムのことに感知しません。」
(Frederiksen, Brian: Song and Wind. U.S.A., 1996, p.99)

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